「何度も同じことを聞かれる」
「ご飯を食べたのに、食べていないと言われる」
「財布を盗られたと言われて、つい強く言い返してしまう」
認知症のあるご家族と向き合う中で、このような場面に悩む方は少なくありません。
頭では「怒ってはいけない」と分かっていても、毎日のことになると疲れてしまいます。
つい否定したり、強い言い方をしてしまったりして、あとで自分を責めてしまう方も多いです。
でも、まずお伝えしたいのは、介護でイライラしてしまうのは自然なことだということです。
ご家族が悪いわけではありません。
この記事では、認知症の方の言葉や行動を「困ったこと」として見るだけでなく、本人の世界から考える接し方を、やさしく整理していきます。
あわせて、記憶力や認知機能を支えるために大切な生活習慣についても紹介します。
認知症の方の言葉は「嘘」ではなく本人にとっての現実
認知症の方が
「財布がない」
「ご飯を食べていない」
「仕事に行かないといけない」
と言うことがあります。
周りから見ると、事実とは違うように見えるかもしれません。
でも、ご本人は嘘をついているわけではありません。
困らせようとしているわけでもありません。
認知症によって記憶が抜け落ちると、ご本人の中では「食べた」「しまった」「今は夜」という情報がうまく残りにくくなります。
つまり、ご本人にとっては本当に財布がなく、本当にご飯を食べておらず、本当に仕事へ行く時間だと感じていることがあります。
この視点を持つだけで、接し方は少し変わります。
「間違っているから直す」ではなく、
「不安な世界の中にいるのだな」と考えることが大切です。
「財布がない」「ご飯を食べていない」が起こる理由
記憶が抜けると、本人の中では事実が変わる
たとえば、食事をしたあとでも、その記憶が残っていなければ、ご本人の中では「まだ食べていない」状態です。
そのため、
「さっき食べたでしょ」
「何回言えば分かるの」
と言われても、本人には納得しにくいのです。
むしろ、否定されたことで不安や怒りが強くなることがあります。
財布のことも同じです。
財布をしまった記憶が抜けてしまうと、「誰かが盗った」と感じることがあります。
これは、本人の中で不安を説明するために生まれる考えともいえます。
感情は残りやすい
認知症が進んでも、うれしい、怖い、悲しい、安心したという感情は残りやすいといわれています。
言われた内容は忘れても、
「怒られて怖かった」
「責められて悲しかった」
という気持ちは残ることがあります。
だからこそ、正しい説明よりも、まず安心してもらうことが大切です。
やってしまいがちな3つの対応
否定する
「そんなことない」
「盗っていない」
「さっき食べたばかり」
このように事実を正そうとしたくなるのは自然なことです。
でも、ご本人の世界では違う事実になっているため、強く否定されると混乱しやすくなります。
説得し続ける
「ここは家だよ」
「もう仕事は退職したよ」
「今は夜だから寝る時間だよ」
何度も説明したくなる場面もあります。
しかし、認知症の方には、理屈での説得が届きにくいことがあります。
説明を重ねるほど、ご本人が不安になってしまう場合もあります。
怒ってしまう
介護する側が疲れていると、つい強い言葉が出ることがあります。
これは決して珍しいことではありません。
睡眠不足が続く。
自分の時間がない。
同じ対応を何度も繰り返している。
そのような状況で、いつも穏やかでいるのはとても難しいです。
大切なのは、自分を責め続けることではありません。
「今、自分もかなり疲れている」と気づくことです。
安心につながる3つの接し方
まず受け止める
最初から否定せず、まずは気持ちを受け止めます。
たとえば、財布がないと言われたら、
「それは心配やね」
「一緒に探してみようか」
このように返すだけでも、本人の不安がやわらぐことがあります。
大切なのは、財布が本当に盗られたかどうかより、本人が感じている不安に寄り添うことです。
一緒に確認する
「ないでしょ」ではなく、
「一緒に見てみよう」
という形にします。
財布が見つかったら、
「あってよかったね」
と安心につなげます。
ご飯を食べていないと言われた場合は、
「今、用意しているよ」
「少し待ってね」
と声をかける方法もあります。
必要に応じて、小さなおやつや温かい飲み物を用意するのも一つです。
今この瞬間の安心を優先する
認知症の方への対応では、正しい情報を伝えることよりも、今この瞬間に安心できることが大切です。
「大丈夫」
「一緒にいるよ」
「心配しなくていいよ」
このような短い言葉が、ご本人を落ち着かせることがあります。
記憶力や認知機能を支える生活習慣
日中の活動量を増やす
夜中に起き出したり、昼夜が逆転したりする場合、日中の活動量が少ないことが関係していることがあります。
昼間に体を動かす時間が少ないと、眠気が夜に来にくくなることがあります。
その結果、夜に起きてしまい、ご家族も眠れなくなります。
日中に少し散歩をする。
椅子に座って足踏みをする。
洗濯物をたたむ。
庭やベランダで日光を浴びる。
このような小さな活動でも、生活リズムを整える助けになります。
軽い運動が脳に良いといわれる理由
軽い運動は、体だけでなく脳にも良い影響があるといわれています。
歩く、足を動かす、姿勢を整えるといった動きは、血流を促し、脳への刺激にもなります。
また、外の景色を見る、人と話す、季節を感じることも、脳にとって良い刺激になります。
認知機能を守るためには、特別な運動だけが必要なわけではありません。
「少し歩く」
「人と話す」
「手先を使う」
「生活の中で役割を持つ」
こうした日常の積み重ねが大切です。
家族も休むことが大切
認知症の方を支えるためには、ご家族自身が休めていることも大切です。
どれだけ接し方を学んでも、眠れていない状態では実践が難しくなります。
疲れがたまると、心の余裕がなくなるのは当然です。
デイサービス、ショートステイ、訪問介護、ケアマネジャーへの相談など、使える支援は一人で抱え込まないための大切な方法です。
介護サービスを使うことは、手抜きではありません。
ご本人とご家族の生活を守るための工夫です。
どのくらいやればよい?無理なく続ける目安
認知機能や生活リズムを支えるための活動は、無理のない範囲で続けることが大切です。
目安は、1日10分から15分程度で十分です。
たとえば、
・朝にカーテンを開けて日光を浴びる
・家の中をゆっくり歩く
・椅子に座って足踏みをする
・好きな音楽を聴きながら手を動かす
・近所を短時間だけ散歩する
最初から長く行う必要はありません。
「今日は5分できた」
「玄関まで歩けた」
「一緒にお茶を飲めた」
それだけでも立派な一歩です。
やる時の注意点
運動や活動を取り入れる時は、安全を最優先にしてください。
ふらつきがある方は、必ず近くで見守りましょう。
立って行う運動が不安な場合は、椅子に座って行う方法がおすすめです。
食後すぐや体調が悪い時は無理をしないでください。
息切れ、強い痛み、めまいがある場合は中止しましょう。
また、認知症の方に「運動しなさい」と強く言うと、拒否につながることがあります。
「少し外の空気を吸おうか」
「一緒にお茶の準備をしようか」
「ちょっと足を動かしてみようか」
このように、生活の流れの中に自然に入れると始めやすくなります。
無理なく続けるコツ
続けるためのコツは、本人が好きなことに合わせることです。
歌が好きな方なら、音楽に合わせて手拍子をする。
編み物が好きな方なら、手先を使う時間を作る。
外が好きな方なら、短い散歩を日課にする。
「正しい運動をさせる」より、本人が安心して取り組めることを選ぶ方が続きやすくなります。
ご家族だけで頑張る必要はありません。
介護予防の運動や生活リズムづくりは、専門職と一緒に考えることで、負担を減らせることがあります。
まとめ
認知症の方の「財布がない」「ご飯を食べていない」という言葉は、嘘ではありません。
ご本人にとっては、本当にそう感じている世界があります。
大切なのは、間違いを正すことより、まず安心してもらうことです。
否定せずに受け止める。
一緒に確認する。
今この瞬間の安心を優先する。
この3つを意識するだけでも、関わり方は少しやわらかくなります。
そして忘れてはいけないのは、ご家族自身の休息です。
介護する人が疲れ切っていると、どんなに良い接し方を知っていても続けることは難しくなります。
認知症の介護は、一人で抱えるものではありません。
困った時は、ケアマネジャーや地域包括支援センター、介護予防の専門家に相談してみてください。
小さな運動や生活習慣の見直しが、ご本人の安心と、ご家族のゆとりにつながることがあります。
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